生命の不思議な生態(第七話)
繁殖出来ない植物(?)が人類を救ったイネ科の植物
1. イネ科の植物の誕生の歴史
今から4億7千万年前、海の中で生活していた植物が陸に上がった。
海中での競争が激しく、生存競争に負けたものだけが陸に上がったのかもしれない。
この頃、陸上の強い紫外線は、酸素が生成するオゾン層によって緩和され、炭酸ガスも豊富にあったから、陸上生活が出来る程度の環境は整っていたようだ。海中植物である藻は、乾燥・高温・強い太陽光に耐えられない。
そこで、この環境に耐えられるコケ類が誕生して地上に進出した。但し、海中から進出したので、湿気のある場所に限定された。
陸上は海ほど栄養が豊富ではない。そこで、光と炭酸ガスと水を使って、自ら炭水化物を作って体を成長させた植物が誕生した。やがて地上は、この光合成するコケ類やシダ類で覆いつくされていった。
コケやシダは植物としては単純な構造であるが、立派に光合成する。現代の最先端科学でさえ、光と水とCO2から炭水化物は作れない。仮にこの材料で大量の炭水化物を作ることが出来たら、人類の紛争の50%は解決できるだろう。世界中で光合成による「炭水化物合成工場」ができれば、エネルギーの大幅な節約・広大な農地は今ほど必要なくなる。
この「炭水化物合成工場」が出来れば、各国の食料自給率に大きく寄与するだけでなく、大気中のCO2を大量に吸収するので、地球温暖化対策に多大な貢献をすることになる。
大豆ミートのように、炭水化物から小麦、米、トウモロコシに代わる穀物製品が開発され、味・食感の見分けが本物とわからないほどになれば、世界の飢饉が救え得るかもしれない。
しかし心配なことがある。
「炭水化物製造工場」が地球上のCO2を大量に使った結果、寒冷化が進み、植物は絶滅の危機に瀕し、生物多様性はおろか、生物自体の絶滅危機を招く。
CO2排出権取引で儲けていた金融機関が経営危機に陥るどころの話ではない。
地球の寒冷化が進むと、EV自動車、太陽光・風力発電は禁止され、CO2を増やすために、化石燃料全盛時代が戻ってくるかもしれない。
そんな時代が到来すると、世界中で、嘗て環境にやさしいと言われたCO2を出さない商品の不買運動が起き、欧米諸国は手のひらを返したように、化石燃料資源を求めて資源国の争奪争いを始めるだろう。
Ⅽ国は、資源の多い新興国の盟主として君臨し、「力による現状変更は許されない!」と世界に訴え、CO2排出先進国として世界をリ-ドしていくだろう。
国連からCO2排出に貢献したⅭ国がリスペクトされ、その時の国家主席にノーベル平和賞が授与される。
とはならない。希望的観測である。
私は今でも植物の光合成技術は、進化の過程で生まれたのではなく、神が創造したのだと信じている。シアノバクテリア自体の祖先は何か。どんな進化を得て誕生したのか。なぜ葉緑体になったのか。
この不思議な光合成のメカニズムは、生命の誕生の謎を解くくらい難しいのではないだろうか。
シダは、光を求めて競争し合いながら背を高くし、自分の体を支えるため、固い茎のものが木となっていくが、この時のコケやシダは、胞子で増えるため花はないので、花粉は無く種もない。その後、何らかの環境変化により胞子に頼らず、自分自身の体の中で受精して、種を作るようになった植物が現れたのだと考えられている。
最初に、ヒノキ・マツ・イチョウのような裸子(種子が裸になっている・・・・胚珠がむき出しになっている)植物が誕生した。これらの木は、大型の針葉樹で、寒さに強く寿命が長い。
この頃の地球は現在よりCO2が遥かに多かったため、針葉樹はどんどん大きくなっていった。木は互いに日光を浴びるために、背の高さを競い合い、巨大になっていった。巨大な高木が繁茂したおかげで、草食恐竜は、豊富な餌を求めて背の高い植物の葉を食べるために長い首へと進化していったようだ。
草食恐竜は、1億7千万年の長期間に亘って生きてきた。まだ被子植物は進化していない時代で草は生まれていなかったので、草食恐竜は裸子植物とシダ類を餌にしていたと推定される。この時代の草食恐竜は、背の高い木の葉を食べていたので、現代の草食動物と異なり、首が長く背が高い。そのため、いつもキリンのように上を向いて歩いていた。
裸子植物は花粉の媒介を風に頼っているので、虫に運んでもらう必要がないから、花は美しくする必要はない。寒冷で乾燥が進んでいる時代・地域は、昆虫や鳥などが極めて少ないために、繁殖する術が風しかなかったのだろう。花粉を風に頼ると言うことは、大量の花粉を飛ばさないとめしべに命中しない。木にとっては、花粉を作るためにエネルギーが大量に必要となる。
地球が温暖化してくると、的を絞って受粉してくれる虫媒花が誕生した。
被子植物の花は、おしべとめしべがあり、めしべの膨らんだ部分を子房と呼んでいる。その中には、胚珠が入っていて、胚珠は受精すると種になり、子房の部分は果実となる。種は子房の中に包み込まれているため乾燥に強く、子房は果実となって鳥や動物に食べてもらうことにより、種を広範囲に散布することができる。こうして、被子植物は勢力を飛躍的に拡大していった。その結果、現在、陸上植物の90%が被子植物で占められている。
虫媒は、風媒よりずっと効率が良い。
被子植物は、虫には多くの花に受粉してもらうために、蜜を提供した。
一方、鳥達には種を撒いてもらうために、甘い果実を提供した。
虫や鳥達は、被子植物の花の蜜や果実を食べて生きているから、被子植物と虫や鳥たちは相互依存関係にあるということになる。
ところがその前提には、虫や鳥達が数多くいなければならない。
要は、虫媒花の存在なくして、被子植物は存在しないので、共進化により互いに依存しつつ繁栄したというのが通説である。
しかし、この通説は、虫媒が何時頃から始まったかも不明のままであるために、被子植物が先に生まれたのか、虫や鳥達が先に生まれたのか、鶏と卵の関係のようで、先後関係の答えになっていない。
昆虫は、百万種前後あり、すべての動物の75%を占める、地球上で最も繁栄した生物である。水中に棲むムカデのような姿の甲殻類の仲間が、四億八千万年前に海から陸上に進出したと考えられている。
昆虫は、自然に奉仕するために生まれてきたようなもので、自然界にとっては重要な役割を果たしている。
- 虫媒花として植物に受粉させて
- 枯れ、朽ちた植物を分解して植物に栄養を補給し
- 山林の土壌を肥やすだけでなく、栄養を川から海に流してプランクトン・魚類を育て
- 鳥の栄養源になっている
生物の多様性が、地球上の生物を支えている。
植物や昆虫は、長い歴史を生き抜いてきたため、素晴らしい機能を持っている。
人類の科学技術の発展は、植物・昆虫の機能を利用し、悪く言えばコピーして成し遂げられたものと言える。最新科学は植物・昆虫の凄い機能に目をつけたが、彼等にしてみれば、そんな機能は人類が誕生する前から持っていると自慢されても仕方がない。
進化は環境に適応したものだけが生き残った変化であると説明されるが、環境に適応する機能をどうやって身に着けたのかという点と、環境適応だけで生物は説明できないことが多い点も謎のままである。
樹上生活をしていた霊長類は、樹から樹へ飛び移るために羽が欲しかっただろうが、人間や猿は現在も羽を持つことが出来なかった。
ダチョウは、何故飛ばないようにと進化したのか。
クジラは陸から海に戻った動物だが、海に戻ってからの期間が長い。クジラにエラがあったら、いちいち海の上まで上がって呼吸することはなかった。クジラの潮吹きは環境適応しているのか。
アフリカのサバンナには古代のような大木は少ない。ところが、キリンの首は短くなっていかない。
地球温暖化が進んでいると危惧されているが、熱帯化すると黒人だけが生き残り、白人と黄色人種は遠い将来、絶滅危惧種になるのか。
話は脱線したが、何事もメリットがあればデメリットもある。虫媒もその点は同じ。
花にとっては、どんな虫でもOKというわけにはいかないのである。花は自分と同じ種類の花粉をつけてもらわなければ種が出来ない。タンポポの花粉を菊につけても子孫は残せないために、花の色・形・香り、蜜の味等を変え、特定の虫だけに蜜を吸いに来るよう進化していったのである。しかし、昆虫が常に豊富な数と種類がいなければ、植物は受粉出来ず絶滅してしまう。
風媒は虫媒に比べて効率は悪いが、風さえあれば昆虫がいなくても繁殖出来る。
昆虫が地上に姿を現す前は、風しか頼るものがないので、風が吹くまま、気のままにしていて繁殖できるのは、構造が単純だったからだ。
針葉樹やシダ類等の原始的植物がいち早く地上に現れることが出来たのは、この構造が単純だったからだ。時代が経過し、被子植物の中でこの単純構造のメリットをイネ科の植物はいち早く知って取り入れた。単純構造は、成長に有利なだけでなく、繁殖能力が高い。
イネ科の植物は、目の付け処がすごい!
無論、考えて行動したわけではなく、適応能力を持ったものが生き延びたためだ。生物は遺伝子の中に、元々環境適応能力を備えていたのか、或いは突然変異して獲得していったのか。何故、そのような機能(遺伝子組み換え能力)をもつに至ったのかわからない。生物の不思議な生態に驚かされる。
中山恭三(なかやま きょうぞう)/不動産鑑定士。1946年生まれ。
1976年に㈱総合鑑定調査設立。 現在は㈱総合鑑定調査 相談役。
著書に、不動産にまつわる短編『不思議な話』(文芸社)を2018年2月に出版した。