クローバー
20世紀、オ-ストリア=ハンガリ-帝国にロ-レンツという動物行動学者がいました。
旧約聖書に登場するソロモンは神殿建設が思うように進まず、困り果ててモリヤ山に登り、ヤハヴェに祈った時天使ミカエルが現れ、黄金に輝く指輪(真鍮と鉄で出来ていた)をソロモンに差し出しました。
「これをはめていると、天使や悪魔(人間ではないの意)を使役することができる」。或いは、「獣や鳥や魚や地を這うものと共に語った」という箇所から、伝説では、動物と自由に話をすることが出来るとされました。
ロ-レンツはこの伝説をもとに「指輪がなくても多少なら動物の気持ちがわかるのではないか」と考え、動物たちを長い間観察して「ソロモンの指輪」を出版したのです。
まえがきで彼は、「自然について知っていれば知るほど、人間は自然の生きた事実に対してより永続的な感動を覚えるようになる」と語っています。
例えば、クモは親から設計図を貰わずしてあの精巧なクモの巣を作り、回遊魚や渡り鳥達は何の目印もないのに進むべき方向を知っています。
植物たちは、季節やカレンダ-がなくても一定の月日に花を咲かせ、朝顔・月見草・月下美人は時計がないのに一定時刻になると花を咲かせます。
科学が進歩した今、いまだにこの謎は解けていません。
彼は、動物を観察していてある事実に着目しました。
ライオン・熊・狼のような牙のある肉食獣は、仲間争いで相手が負けて服従の姿勢をとれば攻撃をやめる本能があります。狼は劣勢を悟ると自分の急所である首筋を相手の牙の前に差し出しますが、優勢な方はそれ以上攻撃せず、縄張りから追い出します。
強い動物同士の戦いの目的は、縄張りを確保することであり、相手を殺すことではないからです。殺せば種が絶滅するからです。
しかし、弱い者同士の戦いは仲間でも仲間でなくても残酷です。
本来、弱い者は相手の攻撃から逃げることで防御していますが、逃げ場が無くなると惨劇が起こります。
キジバト(ヤマバト・・・・普通にみられるハト)とノロジカ(小鹿のバンビで有名)は、両方とも平和の象徴のような存在ですが、このような弱い者同士を同じ檻で飼っていると、一度闘いが起きると勝者は敗者の内臓がむき出しになる迄攻撃をやめません。ノロジカは人間に対しても、油断したすきに角でグサリと突き刺し、猛獣よりもノロジカに襲われて死ぬ人がずっと多いようです。
人間はどちらでしょう。
ロ-レンツは、人間は動物の頂点に君臨するにも拘わらず、残酷だとしています。
人間の悪賢しさは、物理的な面だけではなく、精神面からも弱者を追い詰めるからでしょうか。
ロ-レンツの観察は更に面白く、類縁種であっても種が違えばその本能は発揮されないということです。
七面鳥は仲間(オス)同士が戦うと、負けた方は羽を広げて地面にひれ伏し降参のポ-ズをとります。勝った方はそれ以上攻撃することはありません。
ところが、七面鳥と孔雀が戦うと体が小さい孔雀が勝ちます。
体が小さいのに孔雀の方が攻撃型なのです。
この時、七面鳥は自分たちのル-ルどうり、地面にひれ伏し、首を相手のくちばしの前に差し出すのです。孔雀にはそれが何のことか分かりません。そこで孔雀は容赦なく襲い、七面鳥は中止してもらうために更に首を差し出します。
孔雀は、七面鳥のル-ルがわからないので、際限なく七面鳥を攻め続け首が胴体から引きちぎられてしまうのです。
ロ-レンツは、1973年にノ-ベル医学生理学賞を受賞しています。
一方、植物も種類が多いだけに生存競争は過酷です。
● 土地の奪い合い
● 太陽の奪い合い
● 虫の奪い合い
しかし、植物は動物と違い、動けないので、相手を力ずくで倒すことは出来ません。
花の咲く時期は、動物の繁殖期に当たります。花が咲かないと種が出来ないからです。
土地は根からの養分を補給し、太陽の光で葉は光合成してエネルギ-源であるデンプンを作って花を咲かせ、受粉することにより種という子孫を残します。
だからと言って、一時期に一斉に花を咲かせると、虫がこない花が出てきて生存競争に負けてしまいます。
そこで植物は、春に発芽するもの、秋に発芽するものを分けて開花の時期をずらしているのです。同じ仲間は、一緒に開花します。一緒に開花しないと他の仲間の花粉が自分のメシベにつかないからです。
自家受粉は、遺伝子が同じになりますので出来るだけ避けなければなりません。
遺伝子が同じだと、一つの病気で枯れると仲間が全滅するからです。
植物は、自家受粉しないようにできています。
めしべがおしべより長いのは、おしべの花粉が自分のめしべにつかないようにしており、花が横向きに咲いているのもこのためです。
植物は生命の源です。
空気中の酸素や炭酸ガス、水と適切な温度、そして太陽の光があれば発芽します。
草食動物は植物で大きくなり、肉食動物は草食動物を食べて大きくなります。
土の中からかわいい双葉を広げたさまは、[バンザイ!]と手を挙げているようで何ともかわいくないですか。
もう20年以上前のことです。
町や空き地でどこでも見られるありきたりの単純な「三つ葉のクロ-バ-」を会社のロゴにし、鑑定書の表紙、A4のメモ用紙にもこの絵を載せました。
江戸時代にオランダからガラス器、装飾品を運ぶ時、割れないように乾燥させた「クロ-バ-」の草がクッション材として詰められていました。だからこの草は「詰草(つめぐさ)」と呼ばれたのです。
クロ-バ-は、群落の中で真ん中の部分は光がたくさん当たるように背を伸ばします。端のクロ-バ-は、真ん中の仲間に光が当たるのを邪魔しないように背丈を伸ばしません。仲間と共に共存共栄が出来ているのです。
真ん中のクロ-バ-と端のクロ-バ-の遺伝子は全く同じてあるにもかかわらず、背丈が異なるのです。
この謎も現代科学で説明できません。
一般的に、同種の植物間では異種の植物間よりも厳しい闘いが起きるものなのです。
どうしてかというと、
● 快適な生活場所
● 光の量
● 栄養
● 温度・湿度
● 水分
等、成長の環境が全く同じだからです。
これらの環境が違えば、折り合いがつけられます。同種のものは折り合いがつけられないのです。
何故クロ-バ-が同種にもかかわらず折り合いが付き、更に共存共栄ができるのか。
それは、クロ-バ-が「地下茎」だからだと考えられます。
地下茎は、仮に除草剤で枯らされても地下茎が生きている限り生き残れるのです。地下茎は絶えることがなく冬の寒さにも耐えられる丈夫な草で、助け合う草なのです。
地下茎の代表的な植物は、タケ、ササ、ドクダミ、イタドリ、スキナ、ワラビがありますが、注目したいのはヒルガオです。
ヒルガオは、地下で強く結びついていることから、花言葉は「絆」です。
もっとも、ヒルガオは一度増えると駆除が難しい厄介な雑草でもあります。
クロ-バ-は、ギリシャ神話のヘラクレスが持っていた3つのこぶがある「こん棒」の意味(ラテン語)で、トランプのキングに見られます。
人がよく踏みつける場所では葉の成長点が傷つけられるので、遺伝子変異を起こして四葉のクロ-バ-が出現する確率が高いそうです。
三つ葉のクロ-バ-の花言葉は「愛」、「希望」、「信頼」だそうですが、キリスト教では一本の茎から3枚の葉が生えている姿から、「父と子と聖霊」の三位一体を表していると教えられています。
会社のロゴはいつか自然消滅してしまいましたが、
● 三つ葉
● 共存共栄
● 地下茎は絶えることがない
● 花言葉は「愛」、「希望」、「信頼」
を満たす素晴らしい植物です。クロ-バ-に秘められたこの4つの特質は、心の中で絶えることがなく生き続けていて欲しいものです。
中山恭三(なかやま きょうぞう)/不動産鑑定士。1946年生まれ。1976年に㈱総合鑑定調査設立。 現在は㈱総合鑑定調査 相談役。
著書に、不動産にまつわる短編『不思議な話』(文芸社)が2018年2月に出版した。