生命の不思議な生態_第一話

投稿日:2023年4月1日

生命の不思議な生態(第一話)

 

ロシアのウクライナ侵攻が始まって既に1年を過ぎた。

思い出して欲しい。侵攻直前に、ウクライナ東部のロシア領に1年余りの期間に亘って、10万人以上のロシア兵とベラル-シ兵が集結し、軍事訓練をやっていた。当時、アメリカのサリバン補佐官はゼレンスキ-に警告をしていた。

“ロシアは本気で攻めてくるぞ!“

ゼレンスキ-は、「ロシアと話し合いで解決するから」と、アメリカの情報に対し「パニックを煽らないでくれ」と静観していた。

ところが、侵攻の2日前の2月22日になって、やっと事態の深刻さに気付き予備役の動員をかけている。既に手遅れの状況だった。これが災いして、侵攻直後ロシア軍によって、容易にキエフ(キ-ウ)にまで攻め込まれてしまった。

ロシアの軍事作戦(侵攻・侵略)の目的は、ウクライナの非ナチ化と非軍事化だとしているが、実際の目的は、「ウクライナのNATO参加を武力行使してでも阻止する」ということであった。

「ウクライナはもともとロシア領であり、この侵攻は内戦であるから戦争ではない。だから、欧米は手を出すな!」として、ゼレンスキ-政権の転覆と非武装中立をさせてウクライナをロシアに取り戻そうとした。

私は、当時ゼレンスキ-のみでなく、関係閣僚まで芸能界出身者で構成されており、頼りない政治の素人達だと聞いていたから、平和ボケしている指導者ではロシアの勢力圏に入らざるを得ないと思っていた。ところがある報道機関の解説に触れて、私の考えが間違いだったことに気づいた。

ウクライナは、

  • 非核三原則の国である。
  • 国の法律が専守防衛である

ことよって、ゼレンスキ-は動けなかったのである。この点、日本と全く同じ状況であることから、同情せざるをえなかったのである。

ところが、日本と異なる点は、クリミアを併合されて以降、ウクライナ国民は防衛意識が一挙に高まり、NATOの指導によって防衛が強化されていたのである。

ゼレンスキ-は頼りない素人の政治家どころか、戦争になってからは世界で最も存在感のある強いリーダーになった。

しかし、専守防衛と言うことは、自分の国が戦場になるのを覚悟し、初めから国民を犠牲にすることを前提にする防衛であり、これほどリスキーな防衛は無い。

プーチンは、「ウクライナにいる新ロシア派の住民が迫害を受けている!」と言う理由でウクライナに侵攻した。こんな主張で武力行使を許せば、世界中どこでも戦争が正当化されてしまう。

更に許せないのは、侵攻以降、多くのウクライナ国民を死傷させ、祖国防衛の気力を削ぐ目的で民間施設を中心に爆撃したことである。目的のためには手段を択ばないやり方である。同胞と認識していたのであれば、同じスラブ民族をこんな卑劣なやり方はしない。ヒットラ-さえ、同じ民族を標的にはしなかった。プ-チンは、子分が逆らえば同じ民族でも標的にしてしまう。ナチスがびっくりするくらいの悪行であるが、嘗てのスタ-リンは、ヒットラ-よりも遥に大勢の同じスラブ民族を殺している。

ウクライナでは、軍人のみでなく、老若男女を問わず多くの民間人が亡くなられた。家族の人達は、亡くなられた親、兄弟、妻、夫、子供の笑顔が焼き付いていつまでも離れられないだろう。プ-チンは、ウクライナ人から笑うことさえ叶わない将来を強要した。

新ロシア派の一部の日本人から「喧嘩両成敗」だと主張する人がいる。国際法にそんな罰則は無い。国際紛争を武力で解決する行為は、国連憲章第2条第4項で禁じている。

ウクライナは国連で正式に独立国として認められている。従って、クリミア侵攻も内戦であるはずがない。国際法違反でないと主張するロシアの論理は成立しない。

ロシアにとってクリミアはどうしても手に入れたかった。クリミアは、不凍港であり、軍事拠点である。手に入れるためにプ-チンは民主主義を装った。住民投票では96%の賛成多数でロシアに併合された。

これは、

「領土に関する投票を一部の地域で行ってはならない」

「外国の占領下では投票してはならない」

と規定する国際法違反である。

クリミア併合後も、プ-チンは何故こんな国際法違反を犯してまでウクライナを侵略しようとしたのか。

NATO(欧州)は、どの国もロシアとだけは戦争したくないと思っている。だから、ロシアと危機的状況になっているウクライナがNATOに加盟したいと思っても受け入れることは出来ない。ロシアは、ウクライナに侵攻してもNATOは手を出さないとわかっている。だからこんな無謀なことをしてしまった。しかし、プ-チンはNATO加盟国でないウクライナに、これほど各国から武器支援されるとは思ってもみなかったことだろう。

今、一番大事なことは武器支援ではなく、停戦協議である。

目をなくしたカバの話をご存じだろうか。

「川を渡っていた時、カバが片方の目を失くしてしまった。カバは一心不乱に目を探し続けた。他の鳥や動物は、少し休んだほうがいいと助言したが、永遠に目を失ってしまうと思ったカバは、さらに底をかき混ぜて探した。疲れ果ててカバは座り込んでしまった。しばらくすると、かき回して濁らせていた水は、泥が沈み、底まで透き通って見えるようになった。こうしてカバは、自分の目を取り出した。「一日一止」・・・・一日に一回は立ち止まりなさい。(禅語)

「一止」・・・・止の上に左の一を置くと「正」という字になる。

 

さらに厄介な事は、国連は台湾をウクライナと異なり、国連加盟国どころか国家として認めていない。認めている国は僅か世界で14カ国に過ぎない。

だから中国は、中国の台湾併合を日米が口を挟むことに対し、内政干渉だとしており、台湾を武力によって併合させてもウクライナ併合と異なり、国際法違反ではないとしている。

ウクライナと台湾の悲劇は、同盟国が1つもないということである。戦争は一言で言えば縄張り争いである。

動物の場合、餌を確保するために草食動物を襲う。餌場の縄張りを犯すのは決まって肉食動物であり、草食動物は攻撃されたら逃げるしかない。だから肉食動物は、目が獲物との距離を正確につかむため顔の前についており、左右の眼の間隔が狭いと言われている。

一方、草食動物はいつでも逃げられるよう眼は顔の横についており、首を動かさなくても360度見られるよう配置されている。

人は肉食動物と同じ配置である。

顔の前に眼があり、首を動かさないと360度見えない。

ヒトの祖先はサルだとすると、樹上生活では枝から枝へ飛び移るために、距離感が出やすい前方に眼が付いたとされている。

ところが、人類の祖先が樹上生活からサバンナ(草原)に進出し、直立二足歩行すると、必要でなくなった尾を退化させた。そうすると、草原での生活は肉食動物に何時襲われるかもしれないリスクを避けて、樹上生活で必要だった眼の位置も顔の横に配置されるのが進化のはずだが、現実はそうならなかった。

顔の前に眼があっても、目と目の間隔が狭いと攻撃的に見え、目と目の間隔が広いと柔和に見える。アジア系の民族は、植物食の歴史が長かったからか、目と目の間隔が相対的に広い。

人は戦うよう予め作られたのかもしれない。動物と異なる点は、人は知能が発達しているため、縄張りを犯そうとする敵に対して、どうしたらうまくやっていけるだろうかと考える。動物はそんなこと考えない。話し合いで解決するか、相手から攻撃を直接受けないように隣国に防衛手段としての緩衝地帯を作るかである。緩衝地帯とされた国は従順でなければならない。武力・経済力が劣っていると、隣国の緩衝地帯になってしまう。

善悪の問題ではない。強者・弱者の論理は数千年間ちっとも変わっていない。

こういう弱肉強食の世界が出来ないように、国連を作ったのであるが、常任理事国にこの論理は通用しないことが今回よく解った。常任理事国は、自ら国際法違反を犯しても安保理事会では非難決議さえ出来ない。

世界は全員がハト派になり得ない。国連は加盟国の国の人に、出来るだけ公平に富を分配すれば多少なりとも戦争を防止出来ると考えていた。しかし、自分の分け前以上に富をひったくろうとするタカは必ず存在するので、国連は、国連軍を組織してそれを抑止出来るようにした。そもそも、最も強いタカのメンバーで作られた常任理事国に利害調整なんか出来るはずがない。

中国では、動物を2つに分けている。

人が手なずけられないような動物の漢字には、ケモノ編が付けられている。

猪・狼・猿・豹、狐・狸・猪、そして猫である。

狼は人間に手なずけられて犬となった。ケモノ編が取れたのである。猫は未だ手なずけられない。

アメリカ・中国・ロシアの軍事大国は、手なずけられるか否かと言う判断基準で世界を見ているのではないだろうか。

中国もロシアも日清・日露戦争で日本に負けている。だから、日本は、手なずけられない国として反日政策をとり続けているが、自分がケモノだと気が付いていないのだろうか。

一方、アメリカは日本に負けたことがないので、戦後はペット扱いだ。

ゲルマン民族は、ローマ帝国時代から傭兵として活躍し、最終的にはローマ帝国を倒し神聖ローマ帝国を樹立した。その後、戦争に明け暮れ、ドイツ帝国としてヨーロッパに君臨して統一国家を築き上げた。ドイツは歴史的に闘争本能が強い国家だった。だからなのだろうか。ケモノ編のついた国はドイツ(独)だけだ。

それにしても、ケモノ編に虫はあんまりだ。

ドイツにケモノ編を宛てた漢字は、出来るだけ早く修正した方が良いと私は思っている。修正出来ないなら、現在の常任理事国には総てケモノ編をつけた漢字にしてもらいたい。

 

中山恭三(なかやま きょうぞう)/不動産鑑定士。1946年生まれ。
1976年に㈱総合鑑定調査設立。 現在は㈱総合鑑定調査 相談役。
著書に、不動産にまつわる短編『不思議な話』(文芸社)を2018年2月に出版した。

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