【最終話】
新年あけましておめでとうございます。
いつも私のコラムをお読みいただき、心より感謝申し上げます。
昨年4月から12月までの間、ジャガイモについて書かせていただきましたが、しばしば話題が逸れてしまい、何を伝えたいのか分かりにくいとのご指摘を頂戴しました。
本来は寄り道をしながら歴史を楽しんでいただければと思って書いていたのですが、ポイントがずれてしまったようで、大変申し訳なく思っております。
実のところ、今年の3月分までの原稿は既に準備できていますが、これ以上皆様にご迷惑をお掛けするわけには参りません。
このため、ジャガイモの話題は昨年12月で終了とさせていただきます。
今年の1月から3月号で伝えたかったことは、アイルランドの「ジャガイモ飢饉」によって、アイルランドの貧困層がアメリカへ移民すると、そこには既にイギリス人やフランス人が居住しており、新参者の彼らは差別の対象となったことです。
イギリス人やフランス人の後にドイツ人、アイルランド人、イタリア人、ユダヤ人が入植し、差別の序列が形成されていました。
黒人は別格扱いで、何時も何時の時代も黄色人種と同様、白人の下です。
これら被差別の人々は職に就くことが難しく、就けたとしても警察官や消防士といった命の危険を伴う仕事に従事しました。
職に就けなかった人々の中には、泥棒や恐喝といった違法行為で生計を立てる者もいました。
それは西部劇でよく見られる幌馬車を襲う強盗団のようなものでした。
禁酒法時代になると、イタリア人のマフィアを筆頭にアイルランド・マフィアが活躍し、縄張り争いを繰り返しました。
アメリカ政府は禁酒法が悪法であると気づき、酒の製造販売を解禁しました。
酒が自由に製造・飲用できるようになると、マフィアはギャンブルや売春、麻薬へと活動の場を転換します。
麻薬は国民に大きな影響を及ぼすため、徹底的に取り締まるようになりました。
日本では麻薬の蔓延はありませんでしたが、第二次世界大戦中には特攻隊が突撃前に恐怖心を和らげるために使用していたと言われています。
戦後、軍部は余剰の麻薬を闇市場で売り、大きな資金を得ていました。
その結果、戦争直後には市中に氾濫し、多くの「ヒロポン中毒患者」を生み出しました。
この「ヒロポン」とは、疲労がポンと取れる意味で、空腹感も消失させるため、食糧不足の時代と肉体労働者にとっては救いの薬であったのです。
なお、軍部がこれによって得た資金の流れは未だ不明です。一部の利権団体に流れたのではないかと思います。
問題なのは、日本では大麻は麻の織物〔衣服〕、或いは蚊よけの「カヤ」として使用していましたが、薬物としては使用していませんでした。
使用していない麻をGHQが禁止して、「大麻取締法」を作ったのです。
アメリカは禁酒法の解禁で、密造を取り締まる警察官が必要なくなっていました。
その余剰人員を「大麻取締法」によって麻薬取締官にして吸収したのです。当時の日本では大麻は流行っていません。
それなのに、GHQの指示によって本国と同様、昭和23年に「大麻取締法」が制定されたのです。
どうもこの法律は、日本人向けではなくアメリカの駐留軍を対象にしていたようです。
麻薬は、大麻だけではなく、アヘンやヒロポン、合成麻薬等、多様な種類がありますが、すべて麻薬と言うように麻の名がついています。
本来大麻は医学的にタバコより依存性がないとして、世界の国の一部では合法とされています。
私は大麻を法律で禁止したことで、犯罪組織がこれで莫大な利益を得たのではないかと考えています。
戦前に大麻を吸っていたという日本人は聞いたことはありません。
ポルノが禁止されていた時代には犯罪組織の資金源となっていましたが、取り締まりが緩やかになった結果、資金源としての役割は減少しました。
このコラムの結論として、ジャガイモが世界に広がり、ジャガイモ飢饉によってそれがアメリカへの移民を促し、人種差別から犯罪が増加し、法の無秩序状態が蔓延しました。
その原因を酒のせいにし、その後麻薬のせいにすることで、「麻薬取締法」を生み出しました。
そして、日本は敗戦によりGHQの指示でアメリカナイズされ、現在に至っています。
特に大麻は犯罪組織、特に日本の暴力団の魅力的な資金源となり、今日の犯罪組織の成長を促す要因の一つとなりました。
ただし、昨今の指定暴力団である山口組は麻薬の取り扱いを組織で禁止しているようです。
指定暴力団の原点は港湾労働者を束ねる必要性から生まれたもので、社会的合理性があった面も否定できません。
戦後、治安維持が困難な時期にはヤクザがその役割を担ったことも事実です。
いつの時代もどこの国もアウトローが存在し、彼らを完全に排除することはできません。
国民に大きな害を及ぼさないよう彼らと共存するため、「暴力団対策法」は非常に良く考えられた法律と考えます。
日本が世界で安全と評されるのも、この法律と警察組織が適切に機能している証拠です。
日本は経済的に豊かになったせいで、「縄張り争い」、「しのぎ」等の暴力行為はかなり減少しており、麻薬も指定暴力団が堂々とやれる商売ではなくなっており、ヤクザ組織からもドロップアウトせざるを得ない一部のアウトローの資金源となっているようです。
大麻はアメリカの国益優先政策で始められたことですが、日米同盟によってアメリカの国益に振り回された弱小国の日本は、ここから抜け出せない罠にハマっています。
いつの時代もそうですが、経済より軍事力が世界を支配する構図があり、核保有の質・量に優れる国が法を無視出来、自国の国益優先を堂々と主張出来るのです。
ヤクザには正論が通用しないと同様に、国際法を無視する国の前では国連の存在感が無くなってしまっています。
以上のことを1月から3月の号で伝えたかったことです。
来月からは、もっと身近な事柄、特に思い込みと勘違いをテーマにしたコラムを継続したいと思っています。
以下に簡単な説明を記します。
- 思い込み:定かでないこと、根拠がないことを固く信じる。思い込みは個人的経験や性格等から生まれやすい人間関係に多い。
- 勘違い:間違っていることを正しいと思い込む。思い込みによる勘違いと言うのもあるからややこしい。
- その他
①先入観:事前の知識や経験から生まれる偏った見方や考え方、社会的文化的な背景から生まれることが多い。
②誤解:事実や相手の言動の意味・真意を間違って認識すること。
③心得違い事実と違った認識をしてしまうこと。
これらの観点から発見したテーマについて書いていきます。
たとえば、「他人の目薬を借りて使うと、その人の目の病気が移る」や「目薬を飲むと睡眠薬が麻薬のような効果がある」と言うことを言われた時代がありました。
今でも信じている人がいるようです。
目薬を刺すときに、目薬の口と目が直接触れるわけではないのに、目の病気が感染するはずがないのに。
目から入った薬成分は飲むより体に直接入る。だから、目薬に睡眠薬の成分が入っていたとしたら、目薬を刺すたびに眠くなるはずだが、そんな事は無い。要は睡眠薬の成分が入っていない証拠なのに。
また、救急車のフロントに「救急」という文字が裏返しになっているのを見た人が多いと思う。
裏返しになっている理由は車のバックミラーに映った際に正しく読めるようにするためだと言われています。
なるほどと思って合点した人は考えてみて欲しい。
バックミラーには救急車と赤い救急の点滅ランプが写っているので、救急の文字より目は真っ先にバックミラーに写った車を見て気付くはずだ。
それを見ても解らない人が「救急」の文字を見て、やっと気づくということがあるだろうか。
以上のような内容をコラムで取り上げる予定です。次号もご期待ください。
中山恭三(なかやま きょうぞう)/不動産鑑定士。1946年生まれ。
1976年に㈱総合鑑定調査設立。 現在は㈱総合鑑定調査 相談役。
著書に、不動産にまつわる短編『不思議な話』(文芸社)を2018年2月に出版した。